キャズム理論とは

本来、「キャズム(Chasm)」は「溝」「隔たり」といった意味を持ちます。

キャズム理論では、新商品や新サービスなどを「受け入れやすい顧客」と「受け入れにくい顧客」の間に存在するキャズム(価値観の異なるユーザー層によって構成される2つの市場の隔たり)を克服することが市場開拓において重要だと説きます。

キャズムが生じる箇所は、イノベーター理論という考えをもとに顧客層を5つのグループに分類した際に明確にできます。

キャズム理論の前提となるイノベーター理論とは

イノベーター理論において顧客グループは5種類に分けられます。

具体的には、下記5種類に分類されます。

  • イノベーター
  • アーリーアダプター
  • アーリーマジョリティー
  • レイトマジョリティー
  • ラガード

市場開拓は上から順番に進めていきます。

なお、市場を開拓する際は2段階に分けて開拓していきます。

1段階目の市場を「初期市場」と呼び、今後トレンドになりそうな「最先端」のものに興味を持つ顧客によって形成されています。

2段階目の市場を「メインストリーム市場」と呼び、「安心感」「信頼性」「利便性」などを求める顧客によって形成されています。

キャズム理論では、アーリーアダプターとアーリーマジョリティーの間(初期市場とメインストリームの間)にキャズムが生じているとしており、順調なシェア獲得を目指す際の関門になっていると指摘しています。

 

顧客グループ 市場の種類
イノベーター 初期市場(市場全体の16%)
アーリーアダプター
キャズムが発生→上手く乗り越えれば大幅に市場拡大が可能
アーリーマジョリティー メインストリーム市場(市場全体の84%)
レイトマジョリティー
ラガード

 

イノベーター(Innovators):革新者

初期市場に属し、市場全体の2.5%を占める。

新商品や新サービスなどを最も早く受け入れるため、リスク許容度と情報感度が非常に高い層。

クオリティーよりも最新である点に魅力を感じている場合が多い。

アーリーアダプター(Early Adopters):初期採用層

初期市場に属し、市場全体の13.5%を占める。

イノベーターよりも市場占有率が高く、初期市場の形成に大きな影響を与える層。

若干のリスクを許容する流行に敏感な層で、オピニオンリーダーと呼ばれることもある。

アーリーマジョリティー(Early Majority):前期追随層

メインストリーム市場に属し、市場全体の34%を占める。

流行に乗り遅れないように積極的に取り入れようとする層であり、市場占有率も高いため最も利益を生み出す層と考えられている。

ローリスクで流行に乗り遅れないようにする特徴がある。

キャズムはアリーアダプターとアーリーマジョリティの間で発生する。

レイトマジョリティー(Late Majority):後期追随層

メインストリーム市場に属し、市場全体の34%を占める。

保守的であり、新商品や新サービスの導入割合が多数派であると認識してから購入などを検討し始める。

ラガード(Laggards):遅滞層

メインストリーム市場に属し、市場全体の16%を占める。

最も保守的であり、新商品や新サービスが一般化してから採用することが多い。ラガード層の中には新商品や新サービスを拒絶する者もいる。

キャズム理論(Chasm theory)

キャズム克服のための戦略3選

前提として、自社の新商品や新サービスがアーリーアダプター層のシェアまで獲得できており、アーリーマジョリティ層にアプローチしていく段階であるとします。
また、先述したように初期市場の顧客は「最先端」「利便性」などを求める傾向にあり、メインストリーム市場の潜在顧客は「安心感」「信頼性」などを求める傾向にあります。

 

戦略1:アーリーマジョリティ層への訴求

アーリーマジョリティ層はアーリーアダプター層の影響を大きく受けます。

つまり、アーリーマジョリティ層への訴求を考える際は、アーリーアダプター層の顧客に自社が意図する行動を起こしてもらう必要があります。それらは、拡散であったり、実際に使用している所をアーリーマジョリティ層へ見せるといった行動になります。

それぞれの層を分断的に見るのではなく、常につながりを意識することが重要です。

 

戦略2:利便性の向上

キャズムを克服するには、イノベーター層やアーリーアダプター層のように「最先端」の知識や技術に抵抗が少ない層とは違い、「安心感」「信頼感」「利便性」などを求めるアーリーマジョリティ層にアプローチすることになります。

したがって、新商品や新サービスの利便性を高めて離脱率を下げていくことが必然的に市場拡大に結び付きます。

離脱率を下げるためには、イノベーター層やアーリーアダプタ層の意見を取り入れて改善したことに加え、市場占有率の高いアーリーマジョリティ層の意見を優先して常に改善し続ける必要が生じます。

 

戦略3:小さなスピルオーバー効果(spillover effect)を繰り返す。

spill over というのが、「あふれ出る」「こぼれる」と言った意味を持ちます。

したがってスピルオーバー効果とは、漏出効果や拡散効果とも呼ばれます。

最近では、アーリーマジョリティ層への訴求として、マイクロインフルエンサーによる拡散や熱狂的な顧客によるアンバサダーマーケティングなども有効です。

複数の狭い市場の中でスピルオーバー繰り返していけば、二次関数的に拡散力を強めていくことができます。

 

キャズム理論の活用事例3選

ここまでは小難しい概念の説明となりましたが、イメージのしやすい実例を参考にしてキャズム克服の考え方を学んでいきましょう!

キャズム理論の活用事例1【ネスカフェ】

多くの方が「ネスカフェアンバサダー」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

ネスカフェはイノベーター層とアーリーアダプター層に属する初期の顧客にネスカフェアンバサダーという資格を付与し、職場にコーヒーマシンを無料で置くことができる権利を与えました。そうすることでメインストリーム市場の顧客となり得る層がコーヒー代だけを支払うことで様々な種類の本格的なコーヒーを飲むことができるようになります。

同じオフィスに勤めている人々は、周りの人が利用している様子や、自分でも実際に体験することを通じてネスカフェに対して良い印象を持つようになり、徐々に利用者が拡大していきました。

 

キャズム理論の活用事例2【メルカリ】

キャズム理論はネットサービスの世界でもよく用いられています。

例えば、メルカリはアプリのダウンロード数が200万を超えた時にキャズムを乗り越えたと判断して、それまで抑えていたテレビCMなどのメディア露出を一気に強めることにしました。初期市場のうちは少ないユーザーの中で改善を繰り返してサービスの質を高めることに集中し、キャズムを超えてメインストリーム市場に移った段階で一気に顧客を増やすための戦略転換を図ったのです。

その結果、現在では多くの人が認知し利用するほどの市場開拓に成功しました。

このようにして、キャズム理論では単に市場における立ち位置をみるだけでなく、マーケティングの姿勢転換のポイントを探るのにも役立ちます。

 

キャズム理論の活用事例3【Uber Technologies】

Uber Technologiesはご存じの通りフードデリバリーサービスの「Uber Eats」や配車サービスの「Uber」を運営している会社です。

Uber Technologiesがは「Uber」の利用者を増やす際に、当時のシリコンバレーが抱えていた「タクシーを捕まえづらい」という課題に着目しました。そこで、シリコンバレーで開催されるイベントのスポンサーとなり、参加者に配車サービスを無料提供しました。

その結果、SNSなどで情報が急拡散され、新サービスをアーリーマジョリティ層へ一気に普及させることに成功しました。

まとめ

キャズム理論は顧客を5つのグループに分けて、新商品、新サービスが現在どの層に対して売れているかを測定します。そして、アーリーマジョリティーに浸透が始まった段階で、次なるマーケティングの施策に移るよう促すものとなります。この理論を採り入れることで、よりタイミングに適った戦略立案が可能となります。