全3回にわたり、リマーケティングの仕組みと今後、企業の対策について解説していきます。本記事はシリーズ第2弾「リマーケティングって無くなるの?」です。

2020年7月に政府が実施した試算によれば、インターネット通販事業の市場規模は19兆円を超えており、コロナ禍における巣ごもり需要の高まりもあってこの分野は引き続き成長・拡大していくと予測されています。そのため、業種を問わず非常に多くの企業がECサイトの運営を手掛けるようになってきており、熾烈な競争の中でどのように業績を確保していくかが課題となっているわけです。

ECサイトの売り上げに大きく貢献しているのが「リマーケティング」と呼ばれるマーケティング手法です。サイトの訪問者に関するコンバージョン率をアップさせるうえで、この手法がもたらすメリットは計り知れません。とはいえ、このメソッドが2022年以降まったく利用できなくなるのではという情報が巷を騒がせています。

第1弾|リマーケティングの仕組みとは?

第2弾|リマーケティングって無くなるの?

第3弾|リマーケティング停止に向けた企業の対策とは?

リマーケティングはコンバージョン率をアップさせる非常に有効な手法

これまで多くのWEBサイトでは、利用者に付与したサードパーティーCookieを利用することでリマーケティング、つまり追従型広告を表示させることができました。このサードパーティーCookieはWEBサイトから利用者のブラウザへ割り当てられるもので、利用者のブラウザ内だけでなく、WEBサイトにも保存されます。

WEBサイトはこのCookieの所在を追いかける、つまりトラッキングを行い、ユーザーが訪問している別のサイトに広告用のスペースがあれば、そこを活用してこれまで利用者が閲覧したアイテムやサービスの情報を掲載する、ということができたわけです。このリマーケティングにより、最初の訪問ではコンバージョンに至らなかった人の購買意欲を刺激することができ、コンバージョン率を高めることができます。

リマーケティングに関する懸念

個人の趣味嗜好を推測できる仕組み

一方で、リマーケティング手法にはプライバシー保護の観点から懸念を表明する専門家が多かったのも事実です。実際、Cookieをチェックすることで個人の生活スタイルや趣味・嗜好が容易に推測できてしまいます。

また、悪意のあるソフトウェアを利用してセキュリティー情報を含むユーザーのCookieを盗み出そうとするケースも後を絶ちません。サードパーティーCookieは、ユーザーのアクセシビリティを高める効果があり、ログイン情報なども保存することができます。言い換えれば、ブラウザのCookieを悪意のある第三者にコピーされてしまうと、保存してある様々なサイトのログイン情報すべてを自由に使用されてしまうリスクがあるわけです。

リスクオフの意識があまり強くないユーザーは、ネットバンキングのログイン情報などもCookieで保存していることがあります。そうなると、PCのセキュリティーを突破された場合、いつの間にか大切な資産を奪われてしまうという可能性もあるのです。

2~3割のユーザーが不快に感じる仕組み

セキュリティーリスクの他に、ユーザーからの拒否反応というデメリットもあります。トラッキングによって閲覧したばかりの商品が他のサイトで表示されると、「便利」「思い出させてくれて有難い」といったポジティブな意見を持つ人もいる一方で、「いつも監視されているように感じられる」「個人情報が流出しているのではと心配になる」など、ネガティブな印象を持つユーザーが非常に多いのです。

実際、大手IT企業が実施した調査によれば、トラッキングによる広告表示に関しておよそ2割から3割のユーザーが「不快に感じる」と回答しています。

SafariやFirefoxで対策されたリマーケティング

こうした背景から、個人情報保護とサードパーティーCookieを利用したトラッキングおよびリマーケティングは相いれないのではという見方が徐々に広がり、ブラウザを提供する企業の間でも個人情報の保護をより優先すべきというスタンスを取るケースが増えてきました。

実際、Apple社が提供するブラウザ「Safari」や、Mozilla社が手掛けるブラウザ「FireFox」などは、トラッキング対策としてバージョンアップを行い、サードパーティーCookieのサポートをすでに打ち切っています。ですから、このブラウザを利用している人に関しては、リマーケティングを実施することができません。

しかし、国内外で圧倒的なシェアを誇るブラウザ「Google Chrome」が引き続きサードパーティーCookieをサポートしていたため、それほど大きな変化とはならなかったわけです。

2022年に起こる変化がもたらす影響とは

Google社は2020年1月14日に「Google ChromeによるサードパーティーCookieのサポートを2年間の猶予期間を経た後で打ち切る」と発表しました。つまり、2022年の初旬にはGoogle Chromeを対象としたリマーケティングが一切できなくなることになります。

2020年末の時点で、Google Chromeをアクティブに利用している国内のPCユーザーは全体のおよそ35%に上ります。また、世界的に見るとGoogle Chrome利用者のシェアはさらに高く、なんと45%を上回っているのです。そのため、ECサイトを運営する多くの企業は、Google Chromeをメインのターゲットブラウザとしてリマーケティングを行い、コンバージョン率の向上および売り上げの拡大を図ってきました。

しかし、2022年に実施されるGoogle Chromeの大型アップデート以降は、このマーケティング戦略を放棄しなければならず、根本的な見直しが求められるわけです。

リマーケティングというメソッドが完全に無くなるわけではない

次なるリマーケティング手法を考える

Google ChromeがサードパーティーCookieの利用をブロックすることで、ユーザーの行動をトラッキングすることが不可能となるわけですから、このブラウザを利用したリマーケティング手法は大きく縮小することが考えられます。いまだにCookieをブロックしていないブラウザはあるものの、国内外におけるユーザーシェアを考えると、これからさらに発展していくという展望を持つ人は少ないでしょう。

しかし、リマーケティングというメソッドそのものがまったく存在しなくなるというわけではありません。むしろ、企業側はCookieを活用した現在のリマーケティングが持つメリットおよびエッセンスを抽出して、別のメディアで同じようなアプローチができないかを考える必要があります。つまり、個々のユーザーが持つ関心事を知り、コンタクトを保つためのメディアを見つけることです。

これが達成できれば、ウェブサイト上の広告スペース以外の方法でコンスタントにユーザーをターゲティングして情報を提供することが可能となります。つまり、本質的にはリマーケティング手法を実施していることになるわけです。

最新情報に注目

Googleでは2022年に向けてChromeにおけるCookieの利用を段階的に制限していきます。一方で、急激なEC市場の縮小を防ぐという観点から、ユーザーのプライバシーを保護しつつも、積極的な購買活動をサポートしてECサイトを運営する企業の売り上げにも貢献できる方法を探したいという方針を打ち出しています。

各企業は独自のターゲティング手法を模索しつつ、GoogleやAppleなどから提供される最新情報にもしっかりと反応して、柔軟なマーケティング戦略を組み上げていくことが求められるでしょう。

(データは2021年現在)

まとめ

サードパーティーCookieを利用したリマーケティングは、今後下火になっていくことが予想されます。GoogleやAppleなどのプラットフォーマーが次なる仕組みを考案しているため、最新情報から目を離すことは出来ません。

Web広告を用いたマーケティングを重視している企業は、最新情報へ追いつくと共に、独自の対策を迫られています。次回第3弾では、リマーケティング停止に向けた企業の対策について解説していきます。

第3弾|リマーケティング停止に向けた企業の対策とは?