HubSpot導入マニュアルでは、HubSpotを導入したいマーケティング・セールス担当者向けに、HubSpotの概要、事前準備、製品やプランの内容や料金体系について解説していきます。今回は第1弾、「HubSpot導入前の確認事項」です。
HubSpotの機能を最大限活用できるように、事前に確認すべき項目をヒアリングシートの形式で網羅していきます。ヒアリングする項目と併せて、それらの項目がHubSpotを活用するうえでどのように結びつくのかについても確認をしていきます。
HubSpotの全体像を確認したい方は以下の記事をご覧ください。
※本記事はHubSpotパートナー認定のデジマール株式会社が監修・執筆しています。
自社・競合他社の理解
自社・競合他社の理解をすることは、その後に行うペルソナの設定に必須です。HubSpot導入を代理店に依頼する場合には、相互理解の意味を込めて以下のような質問がされることが多いでしょう。
主軸のサービス
まずはサービスについて理解します。この内容をもとにペルソナを設定していきます。
会社の強みや特徴
サービス内容からだけではわからない、会社の強みや特徴を深堀りして理解していきます。これにより、より具体的なペルソナを設定できるようになります。
競合する会社やサービス
ベンチマークとなるような競合を確認します。特にHubSpotが提唱する「インバウンドマーケティング」では、ペルソナが興味を持つようなコンテンツを発信することで潜在顧客にアプローチすることとなるため、SEO上の競合は必ず押さえておく必要があります。
競合企業の強みや特徴
競合企業の強みや特徴に関しては、サービス内容だけではなく、マーケティング手法における強み・特徴も重要です。前述したようにSEOで高い成果を挙げている競合がいれば、その会社のコンテンツを今後のコンテンツ作成の参考にすることができます。
業界における会社の立ち位置
業界における市場占有率、業界順位、知名度などを確認します。
競合と比較した場合の会社の強み
ペルソナを設定するうえでその妥当性を担保するために競合優位性の情報が役に立ちます。競合優位性を分析することで、ペルソナとしている潜在顧客が自社を選ぶ理由があるのか、第三者の視点に立って考えることができます。
マーケティングや営業に関する課題
自社のサービス内容や強み・特徴、および競合のサービス内容や強み・特徴を理解することで、自社がビジネスを成長させるために足りない点が浮き彫りになります。
HubSpotにはサービス内容自体を変える力はありません。しかし、Hubspot Marketing Hubや、HubSpot Sales Hubを使えば、今あるサービスをより多くの人に届けるために必要な、マーケティングや営業の課題解決をすることができます。また、HubSpot Service Hubを使えば、顧客が継続してサービスを利用してくれるようなサポート体制を構築可能です。
自社と競合について分析し、自社のマーケティングや営業に関する課題を明確にすることで、HubSpotをどのように活用していけばよいのか、その道筋を立てることができます。
ペルソナの設定
ペルソナとは、性別や年齢の基本情報から、どのような場所(オンライン・オフライン)で情報収集を行い、どのような仕事で、どのような課題を抱えているかなどの個人的な背景から抽出される要素すべてを含めた、理想の顧客像のことです。
前述したように、HubSpotの根底には「インバウンドマーケティング」の考え方があります。これは、ペルソナに対して有益なコンテンツを発信することで、ペルソナに自社のサービスに関して興味を持ってもらうことです。
自社が発信するコンテンツの内容は、どのような人物をペルソナに置くかによって大きく変わります。ペルソナの正確性によってHubSpot導入の成果が変わるといっても過言ではありません。
ペルソナはどのように設定するか
HubSpotでは、顧客を「会社」と「コンタクト」(人)単位で管理することができます。
そのためペルソナを決定する際も、「どのような会社の」「どのような人」なのかを明確にすることで、HubSpotの機能を最大限活用することができます。
例えば、「従業員数1000人以上の製造業の会社の、マーケティング担当者」は、「どのような会社の」「どのような人」かを表す簡単な例と言えるでしょう。
ペルソナを決定する際に考える観点
「どのような会社の」「どのような人か」を考えるうえで、考慮すべき観点は数多くあります。中でも押さえておくべき内容は以下のようなものがあるでしょう。
会社情報
- 業種
- 従業員数
- 国、地域
- 売上
- 利益
担当者情報
- 役職
- 職務
- 在籍、経験年数
- 知識段階
- 興味関心
- 思考タイプ
- ステークホルダー
- 予算規模
- 案件の有無
これらの情報をいくつか組み合わせることで、ペルソナが完成します。ペルソナが詳細であるほどコンテンツの内容が決定しやすくなりますが、一方で具体的すぎると、対象となる母数が少なくなりすぎて、リーチすることが困難になる可能性もあります。
例えば、「50~200人規模のBtoBのSaaSベンダーで、Webマーケティング本格開始を検討するマーケティング担当者」であれば、その母数は確保できそうですが、「従業員1000人以上の東京都の食品加工会社で、Webマーケティングを担当している40歳の男性」というような個人が特定できるほど詳細なペルソナを設定すると、その母数には限界があります。
母数が確保できる粒度で、かつ自社のビジネスを求めているペルソナを設定しましょう。
カスタマージャーニーの設定
カスタマージャーニーとは、端的に言えば「潜在顧客が購入に至るまでのプロセス」のことです。「認知ステージ」「検討ステージ」「決定ステージ」の3段階に分けることができ、各ステージでのペルソナの状況、ペルソナの行動、ペルソナが必要とする情報について整理します。
そしてそれぞれのステージにいるペルソナに対して、そのペルソナが求めている情報をコンテンツとしてまとめ、発信することで「インバウンドマーケティング」がスタートします。
以下、「50~200人規模のBtoBのSaaSベンダーで、Webマーケティング本格開始を検討するマーケティング担当者」を例に考えます。
認知ステージ
自身に起こっている課題をなんとなく認識し始めた段階です。課題解決のために必要な情報を集め、自身の知識・理解を深めている段階です。
ペルソナの状態
資金調達が確定し、広告予算を確保したため、本格的にWebマーケティングに力を入れることに。代理店にすでに広告運用を外注しているが、大きな成果は上がらず、他の代理店や自社での広告運用の方法を探そうとしている。
ペルソナの行動
一般的なBtoB広告の成果について調査したり、Webマーケティングの最新手法を検索することで、現在の代理店の運用状況を評価しようとしている。
ペルソナが必要とする情報
- Web広告代理店のサービス内容
- BtoB企業の一般的な広告予算
- BtoB企業の一般的な獲得単価
- 広告の成果を見直す上でのポイント
検討ステージ
はっきりとした課題を解決しようと、具体的な情報を集めている段階です。解決手段の比較検討を行っています。
ペルソナの状態
自社でWeb広告を運用して広告の成果改善を行うことはできないと判断し、代理店を探すことに。Web広告の代理店は数多くあり、どこがいいのか考えあぐねている。
ペルソナの行動
Web広告の代理店について検索し、上位表示される会社のサイトに訪問する。また、Web広告代理店の探し方についても調べたり、比較サイトを見たりしている。
ペルソナが必要とする情報
- Web広告を外注するうえで準備すべきこと
- Web広告代理店を選ぶうえでの注意点
- 主要なWeb広告代理店の比較情報、口コミ
- 各社のBtoB企業支援実績
決定ステージ
課題解決の手段が絞り込めており、必要な費用や担当者の人柄など最終的な決定を後押しする情報を集めている状態です。
ペルソナの状態
自社の広告運用を代行してくれるWeb広告代理店を決めるために、サービス内容が充実しており、担当者が信頼できる代理店を見つけ出したいと考えている。
ペルソナの行動
気になったWeb広告代理店数社に連絡し、サービス内容や、準備すべき予算、担当者の人柄や対応、知識レベルを見極めている。
ペルソナが必要とする情報
- 具体的なサービス内容
- 必要な予算額
- 担当者の人柄や対応の丁寧さ・迅速さ
- 担当者の知識レベル
コミュニケーション設計
カスタマージャーニーが完成したら、それぞれのステージにいるペルソナに対して有益な情報が届けられるようなコンテンツを作成します。いきなりコンテンツを作成するのではなく、コンテンツマップを作成し、コンテンツの全体像を構築します。
コンテンツ作成で大事にすべきこと
HubSpotの「インバウンドマーケティング」を体現するには、ペルソナが求める情報の発信が最も大事です。押し売りの営業ではなく、ペルソナが求める情報、およびサービス・商品を持っているということを、自社コンテンツでアピールするということです。
具体的には、ペルソナが必要としている情報を検索する際にどのようなキーワードを用いるのか想像したうえで、そのキーワードを検索する人のニーズを満たすような記事を作成するということです。
また、ペルソナがどのように情報収集しているかも分析を行い、Google、Yahoo!、Facebook、Twitter、LINEなど、ペルソナがよく使うチャネルで情報発信することも大事です。
「どのような内容で」「どこに」情報発信するかをまとめたものが、コンテンツマップと言えるでしょう。
トピッククラスターの考え方
コンテンツマップの形式には様々な方法がありますが、HubSpotが推奨している「トピッククラスター」形式のコンテンツマップはSEO対策およびコンテンツの管理方法としても高い効果が見込めます。
あるトピックに対して、ピラーコンテンツ(柱となるコンテンツ)を1つ、クラスターコンテンツ(ピラーコンテンツを深堀ったコンテンツ)をいくつか準備します。ピラーコンテンツからクラスターコンテンツへハイパーリンクすることで、ピラーコンテンツのトピックに対する関連性の評価を上げ、掲載順位の上昇を狙うという手法です。
実際、このようなトピッククラスターのコンテンツの構成は、HubSpot上でも管理可能であり、HubSpotを利用するならば理解しておきたい概念と言えるでしょう。
ライフサイクルステージの決定
オウンドメディアでコンテンツを作成して情報発信したり、SNSの投稿を行ったり、広告を配信したりすることで、自社のWebサイトに訪れる潜在顧客が増えていきます。中には会社に強い興味を持ち、e-bookのダウンロードフォームやウェビナーの申し込みフォームに個人情報を入力し送信してもらうことで、HubSpotにおけるコンタクトとなります。
ここまでがマーケティングのプロセスです。
この見込み顧客の中からペルソナに合うコンタクトを見つけ出し、セールス活動を行い、自社が彼らのニーズを満たすと判断されれば、晴れて受注となります。これはセールスのプロセスと言えるでしょう。
このような、マーケティングとセールスのプロセスを横断して、顧客がどの段階にいるのか示す考え方を、「ライフサイクルステージ」と言います。HubSpotで設定する前に、各ステージに関して顧客の状態を定義しておくと、後々落とし込みやすくなります。
実際に設定する際には、それぞれのステージに関して、HubSpot上で特定の条件を持った動的なリストを作成して、そのリストに当てはまるコンタクトをそれぞれのライフサイクルステージにいる顧客として評価します。
Prospect(プロスペクト):サイト訪問者
個人情報を取得していないコンタクトのことです。サイトの訪問者なので、自社の商品・サービスに興味がある人、単なる情報収集でサイトに訪問した人など、様々な人が含まれています。
Lead(リード):リード
メールアドレスと名前を知っているコンタクトのことです。Webサイトの何かしらのフォームから個人情報を入力してコンバージョンした訪問者であり、メルマガを配信してナーチャリングを行ったり、電話番号に対してセールスを行うことが可能となります。
MQL(Marketing Qualified Lead):見込み顧客
HubSpotの動的なリストでペルソナの条件を設定したうえで、その条件に当てはまるリードのことを見込み顧客と言います。「50~200人規模のBtoBのSaaSベンダーで、Webマーケティング本格開始を検討するマーケティング担当者」の例でいえば、
- 従業員規模:200人以下
- BtoBかBtoCか:BtoB
- 業界:IT業界
- コンタクトの職種:マーケティング担当
という条件に当てはまるリードは、MQLとなります。
SQL(Sales Qualified Lead):セールスが当たるべき見込み顧客
MQLの条件を満たすリードの中でも優先順位高くセールス活動がしたいリードのことをSQLと言います。「50~200人規模のBtoBのSaaSベンダーで、Webマーケティング本格開始を検討するマーケティング担当者」の例でいえば、MQLの条件に加えて、例えば月額のWebマーケティング予算が100万円以上のリードという風に定義できるでしょう。
商談機会
セールスが商談を開始しているSQLです。具体的には、担当者がアサインされたコンタクトのことであり、ここからコンタクトは取引という名前に代わります。取引のパイプラインで管理することができるようになります。
取引のパイプラインでは、リードの状況に応じて例えば「アサイン済み」「初期対応中」「アポイント獲得」「ヒアリング済み」「提案済み」「料金シミュレーション送付済み」「結論待ち」「最終交渉」「内諾」「受注」「失注」「マッチしない」というフローで管理することができます。
顧客
顧客は、一度でもクローズ済みの取引があるリードと定義されます。例えば、取引のパイプラインの「受注」に移動したリードと定義することができます。
KPIを設定する
HubSpotを運用する際に、「ライフサイクルステージ」ごとのKPIを設定することで、施策が立てやすくなります。
Prospectが目標値に足りない場合、SEOやSNSの運用を見直し、ペルソナが興味を持つようなコンテンツを発信したり、その量を増やす必要性が見えてきます。
MQLやSQLが少ない場合、リードを増やすか、そもそもの条件を緩和するか、広告でより確度の高い潜在顧客にリーチするなどの施策が考えられます。
広告媒体でみられるコンバージョン数から先の数値管理が行える点も、HubSpotの魅力と言えます。
まとめ
ここまで、HubSpot導入前に準備すべき項目についてみてきました。
- 自社・競合の理解を深める
- ペルソナを設定する
- カスタマージャーニーを考える
- コンテンツマップを作成する
- ライフサイクルステージを定義する
- KPIを設定する
これらを準備しておくことで、HubSpotの導入をスムーズに進めることが可能になります。
次回は「HubSpotの無料で使える機能紹介」と題し、今回準備した項目のうち、どこまでが無料プランでお試し可能なのか、機能の詳細も踏まえながら確認していきます。