デジタルマーケティングの定義と進め方

大手コンサルティング企業、富士通総研が2016年9月に実施した調査によると、デジタルマーケティングに取り組んでいる企業の割合は35.3%ということでした。
それから2年近くが経とうとしています。
この割合は当然あがっていることでしょう。
(参考)デジタル化への認識とデジタルマーケティングの実態調査(株式会社富士通総研)
http://www.fujitsu.com/jp/Images/digitalmarketing2017.pdf
しかし実際の現場と接していると、「デジタルマーケティングに本当に取り組めているか」「目的を達成できているか」、疑問に思う面が多々あります。
この記事ではデジタルマーケティングをおこなうための定義をきちんと押さえ、円滑な取り組みと目標達成を目指すためのポイントを解説していきます。
デジタルマーケティングとは
まずデジタルマーケティングについて、きちんと定義しておきましょう。
1 Webマーケティングとの違い
「デジタルマーケティングは、Webマーケティングと何が違うのか」
「Webマーケティングを言換えただけの、バズワードではないか」
こういった声がよく聞かれます。
Webマーケティングとは、「自社のWebサイトありき」の手法でした。
自社のコーポレートサイトやECサイトに集客をして、売上や見込み客を確保するというものです。
一方のデジタルマーケティングは、これよりもずっと広い意味を持ちます。
2 定義
インターネットの登場、企業がWebサイトをみな持つようになった時に、Webマーケティングという言葉が生まれました。
この時と同じような変革が、今は次々とおこっています。いくつか具体的に挙げてみましょう。
・スマートフォンの爆発的な普及。
・IoTの登場(モノのインターネット)。
・ソーシャルメディアの広がり。
・スマホアプリの一般化。
・無料、もしくは安価で使えるWebサービスの登場。
・ビックデータの活用。
・オンライン、オフライン間のデータ連携と相互送客。
・アドテクやMA、AIなど高度な自動化の実現。
etc。
Webサイトが登場した頃と同じような変化が、短いサイクルで起こっているのがわかります。
もう「Webサイトを作って、そこに集客をして成果を得る」というモデルだけだと、対応しきれないのです。
そのためWebマーケティングを包括する形で、デジタルマーケティングという言葉が生まれました。
デジタルマーケティングには、主に次の要素があります。
〇スマートフォンやIoTなどのデジタル機器、アドテクやマーケティングオートメーションなどデジタルテクノロジーを利用する。
〇データをもとに取り組んでいく。
時としてこのどちらか一方だけがデジタルマーケティングとされることがあります。ここではこの両方を合わせ、
「デジタル機器とテクノロジーを利用し、データを駆使したマーケティング活動」
をデジタルマーケティングと定義づけて進めていきます。
実態
前章でデジタルマーケティングの概念について整理しました。
ここでは、その実態を明らかにしていきましょう。
1 取り組み方
デジタルマーケティングの必要性、重要性は多くの場所でいわれています。
マーケティング、Webの担当者自身はもちろん、会社側からデジタルマーケティングにきちんと取り組むように指示される機会もあるでしょう。また営業などの現場から進められることもあります。
私も、営業部門が主体となっている現場をいくつか見てきました。具体的にはセールスフォース、名刺管理システムの導入といったもので、そこからMAに話が広がっていくケースも見られます。
もっと大きな視点だと、サービスや商品にサブスクリプションモデルを導入するケースもあります。クラウドファンディングやブロックチェーンといった仕組みが利用される場合もあります。
2 問題点
前項の後半で、サブスクリプションモデルなどの導入もされていると書きました。
しかし実際にはITサービスをおこなっている所が中心で、一般的な事業会社ではこうした取り組みはほとんどされていません。
またデジタルマーケティングの具体的な方法としては、「ソーシャルメディア」「コンテンツマーケティング」「インターネット広告」といったものが主です。
これらを戦略的に使えていればいいのですが、手法ありきで実施されているケースが目立ちます。
ソーシャルメディアに関しては「自社アカウントを持ち、トピックスがあれば義務的に更新している」といった具合です。
コンテンツマーケティングもSEOの手法と認識されていることが多く、ナーチャリングやコンバージョンに繋げたり、効果測定をしていくといった意識は希薄です。
インターネット広告もテレビに比べれば遥かに安価、紙媒体に比べたら成果がわかりやすいといったメリットは感じていても、そこで得たデータをもとにマーケティングに取り組むという意識はあまり感じられません。
目標に届かないから慌ててテレビCMを投入、売上は上がったがその場しのぎだったためデジタルとの関係性の検証、次に繋がるナレッジの蓄積もおこなわれないというケースもありました。
このようにデジタルマーケティングの実際の取り組みには、さまざまな問題点があります。
目標と手法
デジタルマーケティングの概念と実際の取り組みを整理したところで、いよいよこの記事のメインテーマに入っていきましょう。目標と手法を具体的に解説していきます。
1 追うべきもの
まずはデジタルマーケティングの目標について、明確にしていきましょう。
デジタルマーケティングは、より大きなマーケティングという枠組みの一つです。
ですからマーケティングの目標が、そのままデジタルマーケティングにもあてはまります。
〇売上数、金額
〇新規客の獲得
〇既存顧客の利用頻度、利用金額の増加
〇認知度アップ
etc
私自身はマーケティングを「利益を得る活動」と考えていますので、デジタルマーケティングの目標も売上数や金額で設定すべきと考えています。
ただし中にはそれにあてはまらない、たとえばアプリやカードの利用者を増やしてビックデータを得るというのが事業目標になっている企業もあるでしょう。
認知度の向上というのには賛同しがたい気持ちもありますが、短期的な目標設定までしかできないなど、ケースバイケースでしょう。
いずれにしても企業や事業内容に合わせて目標設定をおこなっていけばいいわけですが、中には「効果測定がうまくできないから、認知度が上がったという着地点にする」「KPI設定をしていなかったからブランディングの向上とする」という、非常に曖昧なものも目立ちます。
最終的なKGIを明確にし、そこにいたるまでのKPIを細かく設定したKPIツリーまでを作成したいものです。
取り組みを明確にするためには、データにもとづくシナリオ(カスタマージャーニーマップ)の作成もした方がいいでしょう。
なおKGI、KPIの検証はもちろん、そのためのペルソナやシナリオづくりは感覚でなくデータを活用しなければ意味がありません。
データは顧客のデモグラ属性はもちろん、デジタル以外のPOSデータや紙によるアンケート等もデータ化して活用していきます。
社員に対するインタビューもその場限りのものではなく、データとして蓄積して後につながる形にしていきましょう。
データを収集、蓄積する仕組みがなければ、DMPの導入も検討するといいでしょう。DMPの導入でMAや広告と連携して、デジタルマーケティングの幅が大きく広がります。
2 三つのメディアの活用
デジタルマーケティングには、さまざまな手法があります。
たとえばエンゲージメントの方法だけでもメール、LINE、リマーケティング広告などが挙げられます。
ここではマーケティングの基盤になる、三つのメディア活用について解説しましょう。これを理解することで、自社のWebサイトのみを基準にしていたWebマーケティングとの違いも理解しやすくなります。
〇オウンドメディア
自社が作成し、自由に利用できるプラットフォームです。
コーポレートサイト、サービス・商品サイト、ブランドサイト、ネイティブアプリ、ECサイト、情報サイトなどです。
〇ペイドメディア
有料の広告です。
リスティング、リマーケティング(リターゲティング)、ネイティブアドなどがあります。
〇アーンドメディア
ソーシャルメディア、ブログです。
評判や口コミサイトを指しますから、比較サイトやキュレーションメディアも入ります。
Webマーケティングの時代はオウンドメディア内の一部のサイトが中心でしたが、今はこの三つのメディアを複合的に活用する「トリプルメディア」への取組みが大切です。
もっとも大切なこと
デジタルマーケティングでもっとも大切なポイントを、最後に紹介します。
それは、「戦略を持つこと」です。
ここまでに紹介してきた目標に対して戦略を立てていくのが、マーケティングのスタートです。ですから先ほど紹介した目標が無ければ、重要な戦略も立てられません。
トリプルメディアも戦略ありきで生きるものです。
デジタルマーケティングだから三つのメディアを活用するというのは、本末転倒です。三つメディアの何が必要か、どこに力を注げばいいのか、最初のタッチポイントと最後のタッチポイントをどこにするかなどを、戦略にもとづき決めていきます。
またデジタルマーケティングだけの戦略、とするのは得策ではありません。
ここまで何度か触れてきたように、デジタルマーケティングはマーケティングの一部分です。
ですから全体の「マーケティング戦略」として取り組むのが、あるべき姿です。
デジタルマーケティングというと広告宣伝や販促、Webの部門が担うことが多く限定した範囲だけになりがちですが、実際に成果を出している企業は事業全体を巻き込んだ取り組みをしています。
たとえばある外食チェーンでは、商品開発と店舗の立地までをマーケティングと一体でおこなうことで、爆発的な売上を獲得するにいたりました。
マーケティングというと集客やメール配信などCRMの一部だけを担っていると誤解されがちですが、すべてを含んで売上、利益を追うことが大切なのです。
そのためには営業や商品企画、製造や店舗開発といった各部門と密接なコミュニケーションを取りながら進めることが必要になってきます。
デジタルマーケティングをフックにして、いかに全社的な取り組みにしていけるかもポイントになります。
まとめ
デジタルマーケティングは非常に大きな概念になりますが、実際の取り組みでは「顧客一人ひとりに合わせる」ことが大切になります。
その顧客がどういったものに関心を持っているか、どういった動きをしているかを掴んで、それに対する施策をうっていきます。
「おむつとを買うユーザーの多くが、ビールも買っている」という事例は、その代表的なものでしょう。
これは奥さんからおむつのおつかいを頼まれた男性の多くがビールも併せ買いをしていた、だからオムツとビールを並べて置いたところ店頭での売り上げがアップしたというアメリカの事例です。
ビックデータが活用されたからこそ成功したわけですが、膨大なデータが実はユーザー個々の動きを導き出すために利用されているというのがわかります。
最近のデジタルマーケティング界隈ではCX(カスタマー・エクスペリエンス)という言葉が目立ち始めていますが、これなどは多彩なユーザー個々に合わせることの重要性をよく表しています。
またここでは触れませんでしたが、デジタル上の施策だけでは本当は不十分で、テレビや新聞などの広告や紙のDM、自社の冊子等も含めたコンテンツ、店舗やコールセンターといったタッチポイントも含んだカスタマージャーニーマップなど、オフラインも一体化することが重要です。
日本ではまだ十分なマーケティング活動がおこなわれていない、というのはよく聞かれる言葉です。
デジタルマーケティングの機運が高まっている今、それに取り組む部門がハブとなって各所との連携を図りながら進めていくのが、成功に繋がるでしょう。
この記事のポイント
〇デジタルマーケティングとは、「デジタル機器とテクノロジーを活用し、データも駆使したマーケティング」活動。
マーケティングとは、最終的には売上や利益を生み出す仕組み。
〇まずは戦略をきちんと立てて、具体的な手法に落とし込んでいくのが大切。
〇顧客一人ひとりに合わせたマーケティングが重視され、CX(カスタマー・エクスペリエンス)という言葉も広がってきている。