Googleは「Google Chrome」において、サードパーティーCookieの利用を2022年までに段階的に制限すると発表しました。これは広告業界と出版社にとって非常に大きな変化をもたらすことになります。Cookie規制の背景、デジタルマーケティングの手法に与えうる影響、“ポストCookie時代”に持つべき視点などをご説明します。
(※2022年1月25日に、GoogleはFLoCに代わる新技術「Topics」を発表しました。)
サードパーティーCookie利用制限の背景
ネット上の個人情報保護に関して大きな注目が集まっています。各種ブラウザにおいてサードパーティーCookieの利用制限が発表され、企業にはCookieのないデジタルマーケティングの体制構築が求められています。
Cookie利用制限の背景はデータの取り扱いに対するユーザー意識の変容で、日本も含んだグローバルでの法規制が強化されたためです。EUにおけるGDPRやePrivacy Regulation、米国・カリフォルニア州で施行されたCCPAでも個人情報に関わる法規制の強化が進んでいます。
ウェブサイトを離れた後のユーザーの行動を追跡するサードパーティーCookieは個人のプライバシーの侵害につながるとの見方が広がり、AppleはGoogleに先行して利用を制限しました。
インターネット広告は広告の収益とプライバシー保護のバランスで成り立っていますが、Appleは後者を重視しました。
一方、Googleは収益源の一つである広告ビジネスとの折り合いが必要だと考えていました。収益の大半をネット広告が占めています。また、Chromeは世界で約6割のシェアを持ち、影響が及ぶ範囲が広範だとして利用制限に慎重な姿勢をとってきました。
サードパーティーCookieとは
インターネット広告では、ユーザーの興味や関心に合致させる形で広告を表示させる「行動ターゲティング」という方法が一般的に用いられます。行動ターゲティングは購買につながりやすく、非常にパフォーマンスが高いことで知られています。この行動ターゲティングに使用されるのが、サードパーティーCookieです。
代替技術「FLoC」とは
Googleは2022年までにChromeでサードパーティーCookieを利用できなくする一方、Cookieに匹敵するパフォーマンスの「FLoC=Federated Learning of Cohorts(連合学習のコホート)」を代替技術として活用する方針です。プライバシー保護と効率的な広告配信を両立させることを狙いとしています。
FLoCアルゴリズムの実装により、詳細なユーザー属性の特定が可能になれば、プライバシー保護と収益基盤の保護が両立するとも考えました。
FLoCは機械学習アルゴリズムを使用してウェブサイトを訪れたユーザーのデータを分析し、ユーザーを類似した興味を持つグループにまとめクラスター化し広告のターゲティングを行うものです。既存の広告ターゲティングと同等のパフォーマンスを発揮することが可能となっています。
Chrome拡張機能として使用され、収集された個人データについては共有されず、ターゲティングは分析データであるコホート(群)を元に行われます。
Googleがテストを行ったところ、FLoCを使ったターゲティングはCookieベースの広告の最低95%のパフォーマンスを発揮することができました。
Google広報担当者は「FLoCはユーザーを似たような興味を持つグループにまとめるクラスター化に基づいて広告ターゲティングを行うもので、サードパーティーが個人のあらゆるオンライン行動を追跡することでターゲティングしている現在の社会秩序を乱す基準よりもプライバシー面で優れている」と主張しています。
2021年3月にはFLoC公開テストを開始することを明言しました。広告主もFLoCのテストに参加する予定です。詳細は今後明らかになっていくことは間違いありません。
ChromeはFLoCベースのコホートを2021年3月の次期リリースでオリジントライアルとして公開し、Google広告の広告主を含めたFLoCベースコホートのテストを第2四半期に行う予定です。
GoogleはFLoCによって、サードパーティー製追跡機能のサポートを止めた後、関心に基づく広告ターゲティングを可能にしようと考えています。
AIを使いFLoCが広告指標を提供
2020年10月に発表されたテスト結果では、FLoCがその他の広告指標を提供できることも広告主に伝えました。
具体的には、ブラウザにAI(人工知能)を活用したソフトを組み込み、利用者の閲覧履歴を分析します。この分析に基づいて好みや関心が似た数千人の利用者をコホートとしてひとまとめにして、広告主が配信先を選ぶ際に使えるようにしました。
また、閲覧履歴を外部に持ち出すことを防いで、利用者をまとめ個人の特定をできなくしてプライバシーに配慮したのです。
ポストCookie時代へ
GoogleはFLoCとあわせてturtledoveから発展させたFledgeという新しい提案についても発表しました。Fledgeは広告入札をブラウザ上で完結させるTurtledroveに信頼されるサーバを組み込むための提案です。いくつかのアドテク企業が参加するFledgeのテストには2021年後半の行われる予定です。
Turtledroveとは
「Two Uncorrelated Requests, Then Locally-Executed Decision On Victory(無関係の2つのリクエストの勝者をローカルで決定する)」の略です。GoogleのPrivacy Sandboxの一部をなすフレームワークで、コンテキストデータと個人を特定できる情報(PII)を分離するブラウザAPIソリューションです。Googleをはじめとする事業者は、入札オークションをサーバからブラウザ(デバイス)に移行させることを提案しています。
入札オークションをサーバからブラウザに移行させることで、ターゲティング精度やプライバシー問題を守ることができるようになります。リアルタイム入札で実施される広告の決定を、アドサーバーではなく、すべてブラウザ内で実行します。このアプローチは、悪意のある第三者が入札ストリームのデータをかすめ取り、ユーザーのプロフィールを作成することを防止します。
このソリューションでは、広告主はユーザーが興味を持っていると思うものに基づいて広告を表示することができますが、ユーザーの閲覧行動に結びつけることはできません。ブラウザは、コンテキストに基づいた広告リクエストと広告主が特定した興味のあるリクエストの2つを互いに分離して送信します。広告ネットワークは、これらの要求に基づいて最終的な入札を行い、ブラウザ内コードを介してユーザーに広告を配信します。
Cookie代替技術普及の道のり
FLoCという代替技術の開発が進んできたことから22年にサードパーティーCookieへの対応を打ち切る方針ですが、課題もあります。ネット広告市場におけるGoogleの支配力が強まるとの懸念が生じ、英国ではウェブ運営企業などの後押しを受ける形で競争・市場庁がこの代替技術の調査に乗り出しています。
こうした動きは、プライバシー保護という課題と、反トラスト法(独占禁止法)への抵触が指摘されている米IT(情報技術)大手への依存というジレンマの中にあります。
Googleは技術の透明性を高めるほか関連企業と協力する方針を強調しており、社会の理解を得ることが代替技術を普及させる条件になります。
Googleは「FLoCのようなテクノロジーの進捗と測定、詐欺防止、反フィンガープリンティングといった分野の有望な取り組みはウェブ広告の未来です。そしてPrivacy Sandboxは、ポストサードパーティCookie時代の当社のウェブプロダクトに力を与えるだろうと」と述べています。
Privacy Sandboxとは
ユーザーのプライバシーを強化しながらユーザーにとって最適な広告を表示するプロジェクトです。ユーザーのデータはウェブブラウザ(Chrome)が保持するため、広告主がデータに直接アクセスすることはできません。ユーザーのプライバシーを保護しつつ、デジタル広告をサポートしていく手法です。
取り組みとして、個々のユーザーデータを明らかにせず広告選択やコンバージョンの測定ができ、さらに詐欺的な不正行為を防止する新たなAPIが公開されています。
Privacy Sandboxでは、5つのAPIがCookieの代わりとなります。広告主は各APIを使って、自社広告のパフォーマンスや購入に貢献したエンティティなどのポイントに関する集計データを受け取ることになります。
では、5つのAPIとはどのようなものでしょうか。
トラストAPI
Google版のCAPTCHAです。このAPIは、CAPTCHAに似たプログラムへの記入をChromeユーザーに一度だけ求めます。その後は、匿名の「トラストトークン」を利用して、このユーザーが本物の人間であることを証明します。
プライバシーバジェットAPI
それぞれにバジェットを与えることにより、サイトがGoogleのAPIから収集するデータの量を制限します。
コンバージョンメジャーメントAPI
ユーザーが広告を見たかどうか、そして最終的に商品を購入したかどうか、あるいは宣伝ページを開いたかどうかを広告主に知らせます。
FloC
機械学習を利用して、同じようなユーザーからなる各グループの閲覧傾向を調べます。
PIGIN(Private・Interest groups Including Noise
ユーザーが所属すると思われる一連の関心グループをChromeブラウザに追跡させます。
Privacy Sandboxにとって最も重要なことは、すべてのユーザーデータをChromeブラウザに移行し、そこで処理し保存することです。データはユーザーのデバイス内にとどまりプライバシーに準拠します。
Googleが目指すもの
Googleが目指すのは広告エコシステムを維持しユーザーのプライバシーを担保する仕組みです。Privacy SandboxではCookieに代わる非特定のシグナルを利用することで、ユーザーのプライバシーに配慮しながら広告を配信できるようになります。
具体的には個々のデータを識別できないようにする「差分プライバシー」や、ブラウザの機械学習ソフトウェアでユーザーの関心を評価する「フェデレーションラーニング」といった技術を活用します。
こうした技術の活用により個人を特定する情報をブラウザ(Chrome)外に出さずに、共通の関心を持つユーザーに広告を届けることができます。
これまでCookieで実現してきたことを、新たなAPIの活用で置き換えようとしています。また、Googleはユーザープライバシー向上のために、フィンガープリントのようにユーザーにとって不透明な技術は積極的に防止する対策をとっています。
フィンガープリントとは、ブラウザから得られる情報だけで個人を特定する仕組みです。Cookieを利用しない仕組みではあるものの、ごくわずかな情報を組み合わせることでユーザーの特定までにたどりついてしまううえ、ユーザーはそれを拒否することはできません。
まとめ
サードパーティーCookieがChromeブラウザで廃止になるまで、その猶予期間が刻々と終わりに近づくなか、今後の効果的なWeb広告を存続させなければならないアドテク企業やブラウザ企業は、プライバシー重視の代替策を探すのに余念がありません。FLoCはPrivacy Sandbox構想の一環であり、GoogleはCookieレスな未来に向けて広告ターゲティングや測定、詐欺防止の実現を目指しています。
(※2022年1月25日に、GoogleはFLoCに代わる新技術「Topics」を発表しました。)